Google Cloud Next 基調講演レポート: クラウドの新しい道筋とAIの未来

はじめに

本レポートは、Google Cloud Nextのオープニング基調講演の内容を詳細にまとめたものです。Google Cloud CEOのThomas Kurian氏、GoogleおよびAlphabet CEOのSundar Pichai氏をはじめとするリーダーたちが登壇し、AI(人工知能)を中心としたクラウド技術の最新動向、新製品・サービス、顧客事例、そして将来のビジョンについて語られました。本講演の核心は、AIがいかにビジネス変革を加速し、Google Cloudがそのための最適なプラットフォームを提供していくか、という点にあります。本レポートでは、発表された主要なポイントを強調し、技術的な詳細や顧客事例を豊富に盛り込み、どなたにも分かりやすく解説することを目指します。

1. Google Cloudの現状とAIへの注力

講演の冒頭、Thomas Kurian氏は、AIの未来が今まさに現実のものとなりつつあると強調しました。過去1年間でGoogle CloudおよびWorkspace全体で3,000以上の製品改良を実施し、スウェーデン、メキシコ、南アフリカを含む42リージョンへの拡大、さらにマレーシア、タイ、クウェートへの迅速な展開計画を発表しました。海底ケーブル(Umoia, Bosen, Proa)への投資も継続し、200万マイルに及ぶ地上および海底ファイバーネットワークを拡張しています。

特にAI分野での勢いは目覚ましく、以下の点が強調されました。

  • 開発者の利用: 400万人以上の開発者がGeminiを利用。
  • Vertex AIの急成長: Gemini Flash、Gemini 2.0(現2.5)、Imagine 3.0、そして最新の動画生成モデルVeoの強力な採用により、Vertex AIの使用量が昨年比で20倍に増加。
  • WorkspaceでのAI活用: Google Workspace内で月間20億回以上のAIアシストがビジネスユーザーに提供。

Kurian氏は、これらの技術進化以上に、顧客との協業によるビジネスイノベーションとAI導入によるインパクトが重要であると述べ、Next期間中に500以上の顧客事例が共有されることを紹介しました。

2. GoogleのAI戦略と投資:未来への基盤構築

続いて登壇したSundar Pichai氏は、AIがGoogleの使命である「世界の情報を整理し、普遍的にアクセス可能で有用なものにする」ための最も重要な手段であり、Google Cloudを通じて顧客のミッション達成を支援する上でも同様であると述べました。AIの機会は計り知れないほど大きいとし、GoogleがAIイノベーションのフルスタックに投資していることを強調しました。

2.1. インフラ投資の加速

  • 巨額の設備投資: 2025年には総額約750億ドルの設備投資を計画。これはサーバーやデータセンターに向けられ、AIコンピューティングとクラウドビジネスの強化に充てられる。
  • Google規模のインフラ: 検索、Gmail、フォトなどのサービスを世界中の数十億ユーザーに低遅延で提供し、最先端モデルGeminiのトレーニングにも使用されるインフラの重要性を強調。

2.2. ネットワークインフラの公開:Cloud WAN

  • 発表: Googleのグローバルプライベートネットワークを企業向けに提供する新サービス「Cloud WAN (Wide Area Network)」を発表。
  • 特徴: Googleの惑星規模ネットワークを活用し、アプリケーションパフォーマンスに最適化。最大40%高速なパフォーマンスと最大40%のTCO(総所有コスト)削減を実現。
  • 先行事例: Citadel SecuritiesやNestleなどが既に利用開始。
  • 提供開始: Google Cloud顧客向けに同月後半より提供開始予定。

2.3. AI処理能力の飛躍:TPUとGPU

  • TPU Ironwood: 第7世代のカスタムAIチップ「TPU Ironwood」を年後半に提供開始予定。初代TPU比で3600倍のパフォーマンス向上を達成。ポッドあたり9,000以上のチップを搭載し、42.5エクサフロップスという驚異的な計算能力を実現(これは世界No.1スパコンの24倍以上)。エネルギー効率も29倍向上。Gemini 2.5のような「思考」モデルの需要増に対応。
  • NVIDIAとの連携強化:
    • NVIDIAのGB200およびB200 Blackwell GPUを搭載したA4XおよびA4 VMの提供開始(クラウドプロバイダー初)。
    • NVIDIAの次世代GPU「Vera Rubin」を最初に提供するクラウドプロバイダーの一つとなることを発表。
  • AI Hypercomputer: AI導入の簡素化、パフォーマンス向上、コスト最適化を実現するスーパーコンピューティングシステム。最適なハードウェアプラットフォームをサポートし、統一されたソフトウェアスタックと消費モデルを提供。
  • Cluster Director: 多数のアクセラレータを単一の計算ユニットとして展開・管理し、パフォーマンス、効率、回復力を向上。

2.4. 量子コンピューティングの進展

  • Willowチップ: 最新の量子チップ「Willow」が、量子エラー訂正における30年来の課題を解決。キュービット数を増やすにつれて指数関数的にエラーを削減可能にし、将来の実用的な大規模量子コンピュータへの道を開く。

2.5. ストレージの革新

  • Hyperdisk ExaPods: ハイパースケーラーで最高の集約パフォーマンスとAIクラスターあたりの容量を提供。
  • Cache: アクセラレータの近くにデータを保持し、ストレージレイテンシを最大70%改善、トレーニング時間を短縮。
  • Rapid Storage: 最速の同等クラウド代替と比較して、ランダムリード/ライトのレイテンシを5倍低減する初のゾーナルストレージソリューション。

2.6. ソフトウェアによる最適化

  • GKE (Google Kubernetes Engine) の推論機能強化: Gen AIのスケーリングと負荷分散機能により、サービングコストを最大30%、テールレイテンシを最大60%削減し、スループットを最大40%向上。
  • Pathwaysの提供開始: Geminiを支えるGoogle DeepMind開発の分散MLランタイム「Pathways」をクラウド顧客に初めて提供。動的スケーリングによる最先端のマルチホスト推論を最適なコストで実現。
  • VLM on TPUs: VLMでPyTorchを最適化した顧客が、TPU上でワークロードを容易かつコスト効率よく実行可能に。

これらのハードウェアとソフトウェアの強化により、一貫して低い価格でより多くのインテリジェンス(有用なAI出力)を提供できるとし、「Gemini 2.0 Flash(AI Hypercomputer搭載)はGPT-4oと比較してドルあたり24倍、DeepSeek R1と比較して5倍高いインテリジェンスを達成する」とAmin Vahdat氏は述べました。

3. AIモデルの進化:Geminiとその先へ

3.1. Geminiファミリーの拡充と進化

  • Gemini 2.0: ネイティブな画像・音声出力、ネイティブなツール利用など、マルチモーダリティが進化。
  • Gemini 2.5 Pro: 新たな能力「Thinking(思考)」を搭載。応答前に思考プロセスを経ることで、より高度な推論が可能に。Chatbot Arenaリーダーボードで世界最高評価を獲得し、人間の知識と推論の限界を捉えるよう設計された「Humanity’s Last Exam」ベンチマークで過去最高スコアを記録。
    • デモ例: 開発者Matt Berman氏によるRubik’s Cubeシミュレーション(インタラクティブなコード生成能力を示す)、開発者John Martin氏による物理シミュレーション(地球磁場、一般相対性理論など、複雑な概念をインタラクティブなビジュアルに変換)。
    • 提供: AI Studio、Vertex AI、Geminiアプリで利用可能。
  • Gemini 2.5 Flash: 低遅延かつ最もコスト効率の高いモデル。「Thinking」機能を内蔵し、推論量を制御してパフォーマンスと予算のバランスを取ることが可能。
    • 提供: AI Studio、Vertex AI、Geminiアプリで近日提供開始予定。

3.2. Google製品への統合と新製品

  • Googleの主要15製品(うち7製品は20億ユーザー超)すべてにGeminiモデルが搭載。
  • NotebookLM: 長文コンテキスト、マルチモーダリティ、最新の思考モデルを活用し、情報を強力な方法で表示。既に10万以上のビジネスで利用。

3.3. 生成メディアモデルのリーダーシップ

Googleは、テキスト、画像、音声、音楽、動画のすべてにわたる生成メディアモデルを提供する唯一の企業であると強調されました。

  • Veo 2: 業界をリードする動画生成モデル。数分間の4K動画生成、SynthIDによるAI生成識別情報埋め込み、カメラプリセットによるショット構成指示、開始・終了ショット制御、動的なインペインティング/アウトペインティング(動画編集・スケーリング)など、高度なクリエイティブコントロールを提供。
  • Imagine 3: 最高品質のテキスト画像生成モデル。細部の表現、豊かな照明、ノイズの少ない画像を生成。プロンプトへの忠実度も向上。
  • Chirp 3: わずか10秒の入力でカスタムボイスを作成し、既存の録音にAIナレーションを組み込むことが可能。
  • Lyria: テキストプロンプトを30秒の音楽クリップに変換。ハイパースケーラーとして初の提供。

これらのモデルはすべてVertex AI上で利用可能です。

3.4. Vertex AI Media Studio デモンストレーション (Nenshad Bardoliwalla氏)

  • Cloud Nextコンサートのティーザー動画作成を例に、Vertex AI Media Studioの機能を実演。
  • Veo 2の新機能紹介:
    • ラスベガスのスカイライン画像を基に動画生成。
    • カメラプリセット: パン(左右)、タイムラプス、トラッキングショット、ドローンショットなどを簡単に指定可能。「ドローンショット」を指定し、リアルな空撮風動画を生成。
    • インペインティング: 動画内の一部(ステージクルー)を自然に除去し、ギターを強調。
  • Lyria: コンサートに合うアップテンポなBGMを生成。
  • 統合: 生成した動画クリップと音楽を組み合わせて、魅力的なティーザー動画を完成。

4. AIの実装:Vertex AIプラットフォームとAIエージェント

4.1. Vertex AI: 包括的なAIプラットフォーム

Vertex AIは、エンタープライズ対応の基盤モデルを発見し、カスタマイズ、評価、デプロイするための包括的なプラットフォームであり、AIエージェントの構築・管理も可能です。

  • Model Garden: Google自身のモデル(Gemini, Veo, Imagineなど)、厳選されたサードパーティモデル、オープンソースモデルなど、200以上の基盤モデルにアクセス可能。MetaのLlama 4やAI21 Labsのモデルポートフォリオも利用可能に。
  • モニタリング: 新しいVertexダッシュボードで、使用状況、スループット、レイテンシを監視し、エラーのトラブルシューティングを支援。
  • チューニング: 新しいチューニング手法により、アプリケーションに合わせたモデルパフォーマンスの最適化を支援。
  • グラウンディング: Google検索、自社のエンタープライズデータ、Googleマップ、サードパーティソースを組み合わせた、市場で最も包括的なグラウンディングアプローチを提供。これにより、モデルの回答の事実性を向上。既存のNetAppストレージ上のデータを複製せずに直接エージェントを構築可能に。
  • 接続性: あらゆるデータソース、ベクトルデータベース(あらゆるクラウド上)、幅広いアプリケーション(Oracle, SAP, ServiceNow, Workdayなど)との接続が可能。
  • 顧客事例: Intuit(Document AIで確定申告を効率化)、Nokia(アプリ開発を高速化)、Wayfair(商品属性更新を5倍高速化)、AES(監査コストを99%削減)、Câmara Bank(投資助言コールの要約)、Seattle Children’s Hospital(臨床ガイドライン検索)、United Wholesale Mortgage(住宅ローン審査生産性を倍増)、Honeywell(製品ライフサイクル管理を革新)、Deutsche Bank(DB Lumininaエージェントで市場分析を高速化)。

4.2. AIエージェント:インテリジェントシステムの未来

エージェントは、推論、計画、記憶、ツール利用能力を持つインテリジェントシステムです。複数のステップを先読みし、ソフトウェアやシステムと連携してユーザーの指示の下でタスクを実行します。従業員と協働し、効率化、意思決定支援、イノベーション促進に貢献します。

  • Salesforceとのパートナーシップ (Mark Benioff氏): Salesforce CEOのMark Benioff氏は、Googleとのパートナーシップの重要性を強調。Salesforceの「Agent Force」とGeminiの統合により、人間の能力拡張、生産性向上、効率化を推進する「デジタルレイバー革命」をリードしていくと述べました。
  • Agent Development Kit (ADK): 洗練されたマルチエージェントシステムの構築プロセスを簡素化する新しいオープンソースフレームワーク。Gemini搭載エージェントの構築、ツール利用、複雑なマルチステップタスク(推論/思考を含む)の実行、他エージェントのスキル学習、エージェント間連携を精密な制御下で実現。
    • Model Context Protocol: AIモデルが様々なデータソースやツールに統一された方法でアクセス・対話するためのプロトコル。
    • Agent-to-Agent Protocol: 開発されたモデルやフレームワークに関わらず、エージェント同士が通信できるプロトコル。LangGraphやCrewAIなどの他のエージェントフレームワークとの連携も視野に。
  • Google Agent Space: すべての従業員がAIエージェントを利用できる新しい環境。
    • 組織内の情報検索・統合、AIエージェントとの対話、エージェントによるエンタープライズアプリケーション操作が可能。
    • Google品質のエンタープライズ検索、会話型AI(チャット)、Gemini、サードパーティエージェントを統合。
    • ドキュメント、データベース、SaaSアプリとの連携コネクタ、高度なセキュリティとコンプライアンス機能を提供。
    • Chromeブラウザとの統合: Chromeの検索ボックスから直接エンタープライズデータにアクセス可能に。
    • 組み込みエキスパートAIエージェント:
      • NotebookLM: 最大50文書(2500万語)をアップロードし、AIでクエリ可能な仮想リサーチアシスタント。
      • Idea Generation Agent: イノベーション、ブレインストーミング、問題解決を加速。トーナメント形式でアイデアをランク付け、洗練、生成。
      • Enterprise Deep Research Agent: 複雑なトピックを調査し、包括的で読みやすいレポートを提供。
    • 顧客事例: KPMG(法律事務所へのAI導入、Agent Space活用)、Cohesity(データディスカバリー強化)、Gordon Food Service(インサイト発見と推奨アクション簡素化)、Rubrik(顧客インサイト深化)、Wells Fargo(バンキングの近代化・簡素化)。

4.3. Google Agent Space デモンストレーション (Gabe Weiss氏)

  • 銀行のリレーションシップマネージャーの視点からAgent Spaceの機能を実演。
  • パーソナライズされたホームページ: 認証済みで個人向けにカスタマイズ。
  • エージェントギャラリー: 承認済みエージェント(Google製、銀行製、パートナー製、サードパーティモデル搭載エージェント)や自身で作成した個人用エージェントを表示。
  • エージェント作成: 会話形式で簡単にカスタムエージェントを作成。例:「ポートフォリオ分析を実行し、リスクと機会を特定」という指示で、日々の分析タスクを自動化するエージェントを作成。OneDrive、Salesforce、D&Bなどのデータソースから情報を集約し、音声要約をメール送信する機能も追加。
  • インサイトの発見と深掘り: ポートフォリオ分析で特定された「Acme General Contracting」のキャッシュフロー問題を深掘り。Googleの「Enterprise Deep Research Agent」を起動し、建設業界全体のトレンドを調査。Google検索と内部エンタープライズデータの両方をリアルタイムで検索・分析。
  • 予測とアクション: 銀行の「Cash Flow Agent」(Googleの新しい時系列予測モデルを使用)でAcmeの将来のキャッシュフローを予測。結果に基づき、Agent Space内で直接Acme CEOへの会議依頼メールを作成・送信。
  • 利点: エンタープライズデータとツールへの容易なアクセス、会話型ワークフローからのエージェント構築・利用、Gemini 2.5とGoogle検索技術による強力な機能、サードパーティデータ/ツール/エージェントとの相互運用性、厳格なアクセス制御とVPC内運用によるセキュリティとコンプライアンス。

5. AIエージェントのカテゴリ別活用事例

講演では、特にビジネスインパクトが大きい5つのエージェントカテゴリについて、具体的な事例と共に紹介されました。

5.1. 顧客エージェント (Customer Agents – Lisa Ali氏)

テキスト、音声、画像、動画を含むマルチモーダル情報を統合・推論し、人間のような自然な対話を行い、エンタープライズアプリケーションと連携してユーザーの代わりにアクションを実行します。コンタクトセンター、ウェブ、デバイス、店舗、車内など、多様なチャネルで利用可能です。

  • Vertex AI Search: テキストと画像の両方を用いた検索クエリで、顧客が迅速に回答や適切な製品を見つけるのを支援。
    • Reddit (Polly Bhat氏): Reddit上の膨大な会話データを基盤に、AIを活用しつつも「実際の人間」の意見や視点を重視する新しい検索体験「Reddit Answers」をVertex AI Searchで構築。ユーザーから高評価。
    • ヘルスケア・小売向け: 医師や看護師が患者データ(X線、スキャン、画像、病歴)を迅速に検索・分析。小売業者はGoogle検索技術を活用した商品発見機能をウェブサイトに追加し、コンバージョン率と顧客単価を向上。
    • 顧客事例: Lowe’s(動的な商品推奨)、Globo(ストリーミングプラットフォームの推奨機能でCTR倍増)、Mercado Libre(1.5億アイテムにVertex AI Searchを導入し、テキストと画像の意味理解に基づく検索で売上増)。
  • Customer Engagement Suite (CES): Google Cloud独自の顧客エンゲージメントスイート。企業のデータに基づき、ウェブ、モバイル、コールセンター、店舗、サードパーティシステム全体で機能するエージェントを構築。
    • 利用状況: 会話型AIエージェントの使用量が急増。
    • 顧客事例: DBS(顧客対応時間を20%削減)、Love Holidays(顧客サービスコストを年間20%削減)、YouTube(放棄呼率を75%削減)、Verizon(28,000人のケア担当者向けパーソナルリサーチアシスタントで、複雑な問い合わせにも迅速かつ満足度の高い解決策を提供)。
    • 次世代CESの発表: より人間らしい音声・感情理解、ストリーミング動画サポート(顧客デバイス経由で見たものを解釈・応答)、ノーコードでのカスタムエージェント構築支援、APIコールによるツール連携(商品検索、カート追加、チェックアウトなど)、データソース/CRM/ビジネスメッセージングプラットフォームとの統合。
    • デモンストレーション (Patrick Marlo氏): 次世代CESの実演。ホームセンターのエージェントとの音声対話を通じて、購入した植物に適した土と肥料を推奨。顧客がカメラで植物を見せると、エージェントがそれを認識(動画サポート)。標準品をカートから削除し、推奨品を追加。さらに、造園サービスの提案、価格交渉(割引承認のためにスーパーバイザー=人間に確認・指示を仰ぐ)、予約までをシームレスに実行。

5.2. クリエイティブエージェント (Creative Agents)

メディア制作、マーケティング、広告、デザインなどのクリエイティブチームを強化します。大規模なコンテンツ制作の支援や、新世代の視聴者に向けたストーリーテリングの再創造に活用されています。

  • 事例:
    • Sphere / Wizard of Oz (Jim Dolan氏): ラスベガスのSphereにおける「オズの魔法使い」体験。従来の手段では困難だった表現を、Google DeepMindの研究者と共にトレーニングしたAIモデル(特にVeo 2)を活用して実現。ドロシーの全身の動きなどを再現。Google Cloudインフラ上で仕上げ作業を行い、制作時間を短縮。
    • WPP: Googleモデルを活用したプラットフォーム「Open」を構築し、全世界の従業員がキャンペーンの構想、制作、測定に使用。
    • Monks.flow: Google AIを使用してキャンペーンクリエイティブのローカライズを支援。
    • Brandtech Group: ブランド向け広告生成AIプラットフォーム「Pencil」を構築(JALのモックアップ例)。
    • Mondelēz: OreoやCadburyなどのグローバルブランド向けビジュアルを迅速に生成。
    • Bloomberg Connects: 美術館のアクセシビリティを向上。
  • Adobeとのパートナーシップ: クリエイティビティのリーダーであるAdobeとの提携を発表。Adobe Expressなどのアプリケーションに、Googleの高度なImagine 3およびVeo 2モデルを提供。

5.3. データエージェント (Data Agents – Brad Calder氏)

利用すべきデータや問うべき質問を理解し、データチームの効果的なデータ管理とビジネスチームのデータ活用を可能にします。

  • Mattel (Eynon Creiz氏): Google Cloudを活用し、電話、メール、オンラインレビュー、ソーシャルメディアコメントなど、数百万の消費者フィードバックを統合・分析。以前は手動だったパターン特定をリアルタイムで行い、インサイトを得てファンとの関係を深化。Barbie Dreamhouseのエレベーター機構改善やFisher-Price製品のインタラクティブ機能強化など、データに基づいた製品改善を実現。
  • BigQueryの進化:
    • 構造化データ(テーブル、テキスト、ログ)と非構造化データ(画像、動画)を組み合わせてAI向けに全データを活用可能。
    • Apache Icebergなどのオープンフォーマットを直接統合。
    • あらゆるストレージシステムやSaaSアプリケーション(あらゆるクラウド上)のデータにアクセス可能。
    • Oracleデータベースサービス(OCI上で実行)との完全統合。BigQuery、Gemini、Vertex AIと連携し、Macy’sやSaberなどが利用。
    • Geminiとのマルチモーダル分析が昨年比16倍以上に成長。
  • データチーム向け特化エージェント発表:
    • データエンジニアリング: カタログ自動化、メタデータ生成、データ品質維持、データパイプライン生成など、ライフサイクル全体を支援。
    • データサイエンス: データサイエンスノートブック内で包括的なコーディングパートナーとして機能。データロード、特徴量エンジニアリング、予測モデリングなどを加速。
    • データアナリスト/ビジネスユーザー: 会話型分析エージェントが自然言語で強力かつ信頼性の高い分析を実行。自社のウェブ/モバイルアプリに組み込み可能。
  • 顧客事例: Spotify(BigQueryで6.75億ユーザーのパーソナライズ体験を実現)、Unilever(新興市場の数百万小売業者にリーチ)、Bayer(インフルエンザトレンド予測エージェント)、Neuro(自動運転での困難なシナリオ特定)、Nevada州DETR(BigQueryとVertex AIで給付金請求の審査を4倍高速化)。
  • デモンストレーション (Yasmeen Ahmad氏): BigQuery CollabとVertex AI(Gemini搭載)によるデータサイエンスの未来を実演。
    • データ統合: SAP、Salesforce、Google Adsなど、サイロ化されたデータをBigQueryで簡単に接続・統合し、マルチモーダルデータテーブルを作成。
    • データクレンジング: Geminiによる推奨でデータセットをクリーン化。
    • 非構造化データ分析: PDF請求書から買い手や支払い情報を抽出し、Geminiの知識で買い手をセグメント化(従来は数時間のマニュアル作業)。
    • 根本原因分析: Geminiの思考モデルとBigQuery MLを活用し、キャッシュフロー低下の原因(36ヶ月支払いプロモーションの影響)を自動分析。
    • 予測とインサイト: BigQueryノートブックで時系列予測モデルを使用し、将来のキャッシュフローを予測。製品カテゴリ別の分析を追加し、「食品・飲料のような動きの速いセグメントが影響を受けている」という精密なインサイトを獲得。
    • 結論: 全体プロセスが数ヶ月から数分に短縮され、自然言語とコードの両方で、より迅速に新しいインサイトを引き出すことが可能に。

5.4. コーディングエージェント (Coding Agents)

Geminiの高速パフォーマンス、大規模コンテキストウィンドウ、推論能力は、コーディングエージェントとしても非常に有効です。

  • Gemini Code Assist: Google Cloud、Android Studio、Firebase Studio、各種IDEで利用可能。エンタープライズ版は企業のコードベース、標準、慣習を理解。
  • 顧客事例: Amperity (from No Group)、Broadcom、CME Group、PayPal、Wiproなどが利用。
  • 新Code Assistエージェント発表: コードの近代化からソフトウェア開発ライフサイクル全体までを支援。カンバンボード上でタスク状況を表示し、開発者との対話も可能。
  • パートナー連携: Atlassian、Sentry、Snykなど数十のパートナーとの統合、今後も拡大予定。
  • 外部ツールでの利用: Aider、Cursor、GitHub Copilot、Replit、Tabnine、WindsorでもGeminiが利用可能に。

5.5. セキュリティエージェント (Security Agents – Sander Joyce氏)

セキュリティアナリストのスピードと有効性を劇的に向上させます。

  • Googleの強み: Mandiantの調査、Googleのオペレーション、VirusTotalなどから得られる脅威インテリジェンス、プロアクティブな脅威検知・調査・対応プラットフォーム、仮想レッドチーミングによるリスク発見、Mandiantサービスによる専門知識提供。
  • 新セキュリティエージェント発表: マルウェア分析やアラートのトリアージを行い、調査を迅速化。
  • 顧客事例: Charles Schwab(Google SecOpsで脅威対応をプロアクティブ化)、Verdictiv(イベント検知数向上、調査時間短縮)、Dun & Bradstreet(Security Command CenterでAIセキュリティ脅威を一元監視)、Vodafone(Vertex AIとオープンソースツールでAIセキュリティガバナンス層を構築)、シンガポール政府(Google Cloud Web Riskで住民をオンライン保護)。
  • Google Unified Security (GUS) 発表: 比類なき可視性、高速な脅威検知、AI駆動のセキュリティオペレーション、継続的な仮想レッドチーミング、最も信頼されるブラウザ(Chrome)、Mandiantの専門知識を、惑星規模のデータファブリック上で動作する単一の統合セキュリティソリューションとして提供。
  • デモンストレーション (Nav Jagpal氏 & PY Chakravarty氏): GUSの動作を実演。
    • シナリオ: 開発者(Nav)がテスト目的でインストールしたChrome拡張機能(複数の公開LLMでプロンプトをテスト)から機密データが漏洩。
    • GUSの対応:
      • 検知: 統合リスクダッシュボードでデータ漏洩リスクを検知。
      • 自動トリアージ: GeminiのエージェントAIがアラートを自動的にトリアージし、データ漏洩を高信頼度で確認。
      • 自動対応: 問題のChrome拡張機能を即座に隔離。
      • インサイダーリスク軽減: 組織全体のChromeポリシーを更新。
    • 追加リスク検知: 開発者が設定を緩めたVMへの悪意のあるトラフィックを検知し、Google Threat Intelが追跡中の新たな脅威アクターと自動的に関連付け。リスクをリアルタイムで認識し、アクションを実行。
    • 推奨アクション: エージェントがAIモデルを「Model Armor」(新しいAI保護機能)で強化することを推奨。クリック一つでリアルタイムの入力分析を開始し、悪意のある入力をブロック。
    • 統合プラットフォーム: GUSはGoogle Cloudだけでなく、エンドポイント、ファイアウォール、ネットワーク、IDなど、あらゆる環境、データ、クラウド、モデルを保護できる統合されたオープンなプラットフォームであることを強調。インシデント対応や脅威ハンティングの専門知識へのアクセスも提供。
  • WHIS買収: マルチクラウドセキュリティプラットフォームのリーダーであるWHISの買収に関する最終契約を締結。

6. エコシステムとの連携とオープン性

Google Cloudは、顧客が既存の技術ランドスケープに新しいイノベーションを容易に統合できるよう、以下の4つの方法で支援しています。

  1. クラウド間接続: Cross-Cloud Interconnectによるセキュアなクロスクラウドネットワーキング、Microsoft Entra IDとのフェデレーションID連携、AmazonやAzureからデータを移動せずにBigQueryやAlloyDBを利用可能に(Johnson & Johnson、Walmartなどが活用)。
  2. ISV連携: 多くの主要ISVと協力し、Google AIとの統合ソリューションを提供。Google Cloud Marketplaceから容易にデプロイ可能。
  3. サービスパートナー連携: Accenture、Capgemini、Deloitte、HCLTech、KPMG、TCS、Wiproなどのパートナーが、業界知識と既存ITシステムへの深い理解を活かした何千ものエージェントを開発し、Google Cloudと共に発表。
  4. ソブリンクラウド: パートナーと共に、国際的な規制に対応するソブリンクラウドを提供。Google Cloud Sovereign AIサービスは、パブリッククラウド、ソブリンクラウド、分散クラウド、そしてGoogle Workspaceで提供。

7. まとめと将来展望

基調講演を通じて、Google CloudはAI時代における企業の成長と変革を支援するための明確なビジョンと具体的なソリューションを示しました。主要なテーマは以下の通りです。

  • AI最適化プラットフォーム: 最高のインフラ、最先端のモデル、ツール、エージェントを備えた、エンタープライズ対応のAI最適化プラットフォームを提供。
  • オープン性とマルチクラウド: オープンなマルチクラウドプラットフォームを提供し、既存のITランドスケープとの連携を容易にし、AI投資からの価値実現を加速。
  • 相互運用性: ソブリンティ、セキュリティ、プライバシー、規制要件に対応しながらAIを深く導入できるよう、相互運用性を重視した設計。データと知的財産を保護し、コンプライアンス維持を支援。

Thomas Kurian氏は、「私たちは皆様一人ひとりと共に、この新しいクラウドへの道を築けることを光栄に思います」と述べ、参加者への感謝と共に締めくくりました。

次回のGoogle Cloud Nextは、2026年4月22日から24日に再びラスベガスで開催される予定です。AIがもたらす変革の波はまだ始まったばかりであり、Google Cloudが提供するツールとプラットフォームが、今後ますます多くの企業のイノベーションを加速していくことが期待されます。

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